企業調査のこんな対策
大規模な資産である不動産の価格が高騰すれば、証券化のあるなしにかかわらず、経済全体に甚大な被害をもたらす。
皮肉にも、90年代の不良債権問題から日本経済が少しでも回復する上で重要な役割を果たしたのは、90年代末に不動産証券化を促進するような制度変更が行われ、不動産市場への投資が積極化したことであったのだ。
「百年に一度」という今回の金融危機は、しばしば1930年代の世界大恐慌と比較されることがある。
センセーショナルな雑誌などでは、「世界大恐慌の再来!」などと書いて危機感を煽っている。
たしかに世界で同時に景気が減速し、グローバルレベルでの金融破綻が起き、この原稿を書いている2009年1月の段階でもまだ景気の底が見えてこないような状況では、世界大恐慌の恐怖が頭の隅をよぎってもおかしくはない。
1930年代に世界を襲った世界大恐慌は人類に多くの苦難をもたらした。
米国では労働人口の4分の一が失業状態、つまり失業率25%という状況は、今の日本の状況からは信じられないほど悲惨な状態だ。
経済が落ち込めば、政治や社会にも多くの混乱と不安が生まれる。
日本が軍国化の道を歩み、ドイツでナチスが台頭したのも、30年代の大恐慌と決して無関係ではない。
1920年代の世界大恐慌は第二次世界大戦という20世紀最大の悲劇の主要因の一つでもあったのだ。
ではなぜ世界大恐慌が起きたのだろうか。
この疑問に答えるべく、膨大な数の研究成果が出されている。
この小冊子でその膨大な研究成果を簡単に整理できるものではない。
ただ、これから先に深刻な世界大恐慌が待っているのか否か、またそうした悲惨な状態を避けるためには何が必要であるのかを考えるためには、世界大恐慌の背景に存在する要因について整理しておく必要があるはずだ。
よく知られているように世界大恐慌は、1929年に起きた、ニューョークのウォール街の株の大暴落に端を発している。
1920年代の米国は自動車の普及などに象徴される経済的拡大の中で、株式市場に深刻なバブルをつくり出していた。
その株式バブルが、29年に破裂したのだ。
ウォール街の株の大暴落は世界大恐慌の発端となった。
事実である。
そのことと、株の大暴落が大恐慌の主たる原因であると考えることとは別だ。
株の大暴落は経済に深刻な影響を及ぼしうるが、それだけで大恐慌になるというものではない。
1930年代に世界が大恐慌に陥ったのは、株の大暴落の後、各国の政府が多くの誤った政策を繰り返したからである。
端的に言えば、政府は金融危機に陥った銀行に十分な流動性(資金)を提供せず、多くの金融機関の破綻を招いてしまった。
デフレになったときにはマネーサプライを拡大することが必要であったが、そのような政策がとられないまま、経済は縮小を続けていったのだ。
各国は自国の景気を刺激するために通貨切り下げを繰り返し、結果的に国際金融市場に無用の混乱を招いた。
また、各国が貿易保護政策をとり、英仏などはブロック化を進めていったので、世界の貿易は縮小し、すべての国が被害を受ける結果になった。
大恐慌の歴史を見ると、各国が政策的な過ちを次々に繰り返し、そうした要因が複合して世界大恐慌という悲惨な状態が長期間続く事態に陥ったことが分かる。
当時と比べてみると、今回の金融危機は「百年に一度」というような深刻な金融危機という意味でも、ウォール街の大暴落に匹敵するような事態と言ってよいだろう。
ただ、問題はこれから先である。
今後、2、3年の間に、各国が世界大恐慌のときと同じような過ちを繰り返し、傷を広げていくのか、それとも大恐慌時代の教訓を活かして正しい対応をとっていくのかが問題なのである。
金融は生き物である。
拡大するときには自己増殖的に大きくなっていく。
バブルはそうした拡大過程が伝染病のように広がった状態とも言える。
不動産価格が上がっていけば、そこに投資しなくてはいけないと考える投資家が増える。
そのような投資家が増えれば、現実に不動産価格も上昇していくのだ。
その不動産価格が上がるのを見て、人々の期待はさらに高まることになる。
最近の経済学では、心理学などの手法を用いながら、このような伝染的なプロセスについての研究が多く出されるようになってきた。
一方で、金融が生き物であるということは、負の連鎖も生み出しうるということだ。
金融危機で世界を覆っているのは、まさにこの負の連鎖である。
いったん信用が揺らぎ始めると、誰もそこに資金を投じようとしない。
サブプライムローンを組み込んだ証券化商品が投げ売りされれば、安値といえども、買おうとそれに手を出すのは難しい。
特に今回の金融危機のように、不動産関連の証券化商品が一斉に売りに出されるような状況ではなおさらだ。
金融システムとは、互いの信用の上に成り立っている。
だからこの信用が崩れると、金融システムは機能しなくなってしまう。
資金の多くが国債のようなリスクの低い商品に流れれば、リスクの高い債券やそれらに関連した金融取引は成立しなくなる。
金融機関も市場から資金が取りにくくなれば、積極的に貸し出しに回したり、あるいは投資で運用したりすることができなくなる。
世界大恐慌のときには、絵に描いたように見事に、このような金融収縮が起きた。
次ペー図2(上)は、ウォール街の株の大暴落後の米国のマネーサプライの動きを追ったマネーサプライとは、経済に流通している現金と預金の総額である。
この二つを利用して様々な取引が行われるわけだ。
経済を人体に例えるなら、マネーサプライは血液と考えればよい。
多すぎればインフレになるし、少なすぎれば資金が回らなくなる。
図2にもあるように株の大暴落後、米国のマネーサプライは急速に縮小した。
なぜこのようなことが起きたのだろうか。
銀行も国民も防御的な行動をとった結果なのである。
金融危機に直面し、多くの国民はできるだけ安全な形で資産を持とうとする。
もっとも安心なのは現金であり、人々の手元に多くの現金が滞留することになる。
まさに図2(下)でも現金比率が高くなっていることが示されている。
銀行の預金取り付けは、こうした現金への逃避がもっとも激しく起きた現象と言える。
もし自らが預金を預けている銀行の先行きが不安になったら、人々は銀行から預金を引き出そうとするだろう。
そうした人が銀行の前に多く並ぶことを預金取り付けと呼ぶ。
銀行のほうも防御的になる。
多くの預金者が預金を引き出しに来ても、それに対応できるように、できるだけ多くの現金を準備しようとするのだ。
当然、貸し出しや投資に回すお金は少なくなる。
このように、国民も銀行も防御的になり、より多くの現金を持とうとすれば、それだけマネーサプライの規模は小さくなってしまうのだ。
金融というのは、順調に動いているときには自然に拡大していくもので、人々が預金した資金が貸し出しに回り、回り回って新たな預金として入ってくる。
経済学では信用創造と呼ぶ。
一方で、金融危機に直面して人々が防御的な行動に出れば、それだけ信用創造のメカニズムは働かなくなり、マネーサプライは縮小してしまうのだ。
ノーベル経済学賞を受賞したM教授は、若い頃の有名な著作の中で、大恐慌時にはこのマネーサプライの縮小が深刻な形で起きていたことを指摘した。
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